靴屋の靴は穴だらけ。

京都・靴工房かたつむりの日記

"Yes, Virginia, There is a Santa Claus" クリスマスに送るスペシャルブログ。きっと誰もが誰かのサンタクロース。

"Yes, Virginia, There is a Santa Claus"

 8歳のバージニアちゃんにサンタさんは絶対にいるんだよ、とニューヨーク サン新聞が世界一有名な社説を掲載してからはや120年近く。

2014年のクリスマス時期、靴工房かたつむりでも何人ものサンタクロース目撃情報がありました。
今日のブログはクリスマススペシャル‼︎
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ちょっと長いけれど、きっと暖かい気持ちになっていただけるはず。

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トップバッターはこの人!
これはワラーチキャンペーンの時の写真ですね。
かたつむりワラーチ2足目の彼は、
前回、紐の結び方の手順を写真に撮ったものを一緒に来た彼女に見せながらしっかりレクチャーしてました。

マイクロコルク二枚重ねのごっついワラーチ作って、
気に入って使っていただいてるようでなによりです。

だけどちょっと不思議なことも。
帰り際、自分で用意してきたパターンがなぜか見つからなくて、あちこち探し回り、
狐につままれたような顔をして帰られました。

自分の意思で、ワラーチ2足目、
作りに来たと思ってらっしゃいました、か?
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えへ。
パターンが、実は、わたくしが柱の陰に貼って隠しておいたのです。
持って帰られると色々ややこしいことになるので、見つかったらどうしようとヒヤヒヤドキドキでした。
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はい! サンタさんは彼女の方!

クリスマスプレゼントでサンダルを作りたい。ワラーチを一緒に作りに行くので、その時にバッテンサンダルのパターンを内緒で取ってほしい、というオーダーでした。
「私がちょっと実験的にやっていることがありまして、ちょっと足貸していただいてもいいですか?」とかなんとか適当なことを言って、足型を踏んでもらった上にガムテープのストラップをバッテンに渡し、ストラップの長さと角度をゲット。

考えるタイプの彼が、自分で足型そのものではないオリジナルのパターンを描いて持ってきたので、慌てた彼女が「先生、大丈夫でしょうか?」と玄関裏に私を呼び出してひそひそご相談、という一幕も。

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ということで、サンタ1号、作業スタート!
可愛らしくて華奢な彼女。
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「私はバレないことに全力を尽くしています」という感じが見ていてメッチャかわいいのです。

「なんで京都にいるの?というクエスチョンに対して、⚪️⚪️先輩と飲みに行ってたから、って答えようと思ってるんですけど、口だけだとバレちゃいそうなんで、この後本当に⚪️⚪️先輩と飲みに行くアポ取っちゃいました!」

みたいな。
そりゃ楽しいわ。

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と、そんなある日。
一人の青年がいきなり訪ねてきて
「クリスマスまでに彼女のために靴を作りたい」
と、突然のサンタ2号宣言。

ええ⁈   ぎょっ。クリスマスまで⁈
と思わずカレンダーを二度見してしまいました。
すでにクリスマスまで2ヶ月を切っていて、実際に作業できるのは1ヶ月半という状況。。

「余りにも時間がないですけど、どれくらい通えますか?」
「めっちゃいっぱい来ます!」

「ほーなるほど。
    手先はご自分で器用な方だと思いますか?」
「器用だと思います」

青年のまっすぐなオーラに寄り切られ、やってみることになりました。

「器用に」ではなく「丁寧に」は、かたつむりの背骨のような考え方。
「不器用」で失敗したら「丁寧」な気持ちでやり直せばいい、ということなのだけれど、
彼の場合は余りにも時間が限られていたので、失敗をリカバリーする、「丁寧に」戻る、時間的余裕がなさそうなのがとてもリスキーに思えました。
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そんな私の心配をよそに着々と進む彼。
彼女が青が好きなのでどうしても青い靴が作りたい。
工房の手持ちの青はどれもちょっと違うと言うから、発注しました。
真っ青。
その向かいで「先生、この茶色ちょっと派手ですかね?大丈夫ですか?」とか聞きながら裁断している生徒さん。笑。大丈夫。派手じゃないよ、いい色だよ。
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宣言通り、器用です。
美しい折り込みライン。
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そんな2人が一緒になる日が何日かありました。
2歳のK君。先生なんでそんなとこから写真撮ってるの?って顔でこっちを凝視してるけれども。。
このお兄ちゃんとお姉ちゃんは内緒で靴作ってるからね、バレちゃいけないのよ。
だけどいっつもえらい個性的な帽子をかぶってくるこのお姉ちゃんの後ろ姿は一発でバレてしまうね。
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K君。先生今度はなんでそんな高いとこ登ってるの?って顔でまた私を見てるけれども。。
この和気あいあいの素敵な机の感じを撮りたいけど、お耳付きの帽子が写り込まないようにって考えると難しいのよ。
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ふ〜ん。大人って大変。

お母さんの作ったおにぎりを美味しそうにパクつくK君の向かいで
サンタさん1号と2号がキャイキャイ話していたことは

「実はUSJで渡そうと思ってるんです」
「えー⁈実は私もUSJ」

というまさかのクリスマスデートスポット被り。

え、USJって映画のテーマパークじゃないの?
そんなクリスマスにデート感漂ってるわけ?

と何も知らない関東出身の私は思ってしまったわけですが
聞くと、なんとなんと

2014年  クリスマスに大切な人と行きたいデートスポットランキング第1位‼︎

なんだそうな。
ディズニーランドよりも?ホントに?
ということで他の生徒さんにも色々聞いたけど、ちょっと最近のUSJはすんごいらしい。

プロジェクションマッピングは特に見もので、予め予約席取っておかないとまともに見られないらしい。

2人もなんだかんだ情報交換しとりました。。
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さてさて、USJの夢のようなプロジェクションマッピングに心馳せつつ、サンダルは進みます。
ずっと彼女があちこちのお店を回って探し続けていたマリメッコの布。
ある日彼女が「やっと思い通りのもの見つけました!」と持ってきたのは、
大阪のとあるマリメッコ売り場で1週間粘った末、最後の日に数時間にわたり応対してくれた親切な店員さんが、最後に秘蔵のマリメッコを奥から出してきたもの、らしい。
店員さんありがとう!
THE粘り勝ち。
渡す人の顔が思い浮かんでる人はホントに妥協しません。
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見た目のバランスを整えながら、一つ一つ工程を進みます。
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ソールはワラーチでも人気のドクロビブラム。白黒バージョン。
裏にも手を抜かない。
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完成‼︎

マリメッコ✖️ダルメシアン柄のハラコ✖️イタリアのタンニン鞣しの革
よくこんな組み合わせ思いつきました。
ポップでオシャレ。
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「K君、どお?可愛いって言って。」と2歳児に迫る。
蚊の鳴くような声で「かわいい。」と言ってくれました。笑。
後は渡すだけだね。
緊張感が解けて「なんか甘いもの買って帰りま〜す」と言いながらお帰りになられました。
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たまたまその日BGMでかけていたビートルズのアルバムからレットイットビーが流れてきて、
ベビーシューズ出来上がり、USJ同志のバッテンサンダル出来上がり、
そこはかとない卒業式感が漂う中、
「なんか僕、ひとり取り残された感じですね。。」とポツリ一言。

いやいや、この靴はここからが長いのです!
まだ縫ってるじゃないの!

ちなみにこの時ミシンを踏みながら手をつった彼。。
ミシンで手つる人初めて見た。。
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手縫いでステッチ。
手縫いを入れたかった位置と、機能する縫い目の位置がちょっと違ったので、
際にミシンを一本足しました。
「丁寧」な心。

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彼は、もうどうやったら社会人がそんなに全部通ってこられるんだろう、というくらい平日も週末もずっと来ていたので、他の生徒さんにも、どえらい勢いで靴作りに来てる青年の振りまくクリスマス感がちょっとずつ伝播しはじめ

はあそうか、クリスマスかあ〜クリスマスねえ〜   的な会話になることもしばしば。
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「クリスマス?  キリストが生まれたってだけの日でしょ?みんな色々やりたがるもんなんですね〜」
まあねえ、その通り。
そう言っちゃう生徒さんも愛を持って受け止めるよ。笑。

そう。
実際は、仕事でげっそりして帰ってきたりして
帰り道のイルミネーションとテレビの中だけクリスマスで、
それか、バッタバタ子育て中でいつもと同じ晩御飯用意するのが精一杯で。。

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クリスマスなんて遠い過去の響き。。

そうよね。そうよね。
私も子供できてからさあ。

と愚痴りかけて、ハタと気付いた。
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そう、子供できてから気づいた。
クリスマスってね、
サンタクロースにもらうより、
サンタクロースになる方が何百倍も楽しいのです。

もらう100倍ワクワクドキドキ。
ウチの3歳の息子に、
「もしサンタさん来なかったらどうする?」と戯れに聞いてみたら
「お薬送ったげる」と答えました。
サンタさんは絶対来る。来られないとしたら、それは忙しすぎて風邪ひいた「病欠」の時だけ。
だからお薬送ったげる。
というくらい信じている。そんな人のサンタクロースになれるのはもうこれ以上ないくらい幸せなのです。与えようと準備してる側だけに存在する贅沢な時間。

ほんと楽しい。


そうだ!京都行こう!   じゃなかった。
そうだ!みんなでサンタになろう!

サンタクロースが来なかったとしても、
いつでも、だれでも、サンタクロースになることは出来るのだ!
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ということで、いろんな生徒さんにみんなでサンタになろう計画を放ってみる。

「どお?ご両親にバブーシュとか」
「バブーシュですかぁ?  ウチの親の場合、バブーシュって何かから説明しないとですねぇ〜」
なるほど。そういうこともあろうもん。

「どうですか?奥様に靴なんて」
「はぁ、そーゆー時期は過ぎましたかねぇ。そーゆー感じじゃないですね〜」

という感じの中、
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「考えてないわけでもないんですよね」という既婚男性生徒さんがサンタさん3号に名乗りをあげる!

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で、なんとバブーシュ一気に6足!
多い。。
  6つ子ちゃんですかぁ?と派手な誤解をした生徒さんもいました。
6つ子ではないが、この6足、なかなか愛に溢れた人選です。笑。

もはや工房というより「工場」に近いこの分量感。
ひたすら縫います。
で、こちらもリミットまでの時間が余りにも少ないバッタバタ!
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ひたすら穴開けます。
踵のパーツだけ送る相手によって変えることにしました。
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やり方を覚えるために片足だけ練習し
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もはや、サンタクロースプレゼント工場の下請け従業員と化した私が
いろんなパーツを大量に切るお手伝いをし、
瓶持参で接着剤も持って帰り、この状態からお家で一人で頑張ることになりました。
「大変だなぁ。。有給とらな終わらんなあ。。」とぼやきながら帰って行かれました。笑
(多分今もまだ縫ってる。おとうさん頑張ってー)
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と、そこに!
自分の作業をしながら、静かにその「クリスマスまでにバブーシュ6足」のくだりを聞いていた別の生徒さんが。。
クリスマスまでに6足いけるんだったら、俺も2足くらいいけるんちゃう?
とお家で静かに気持ちを固められ、
ご両親にバブーシュ2足作ります、という気持ちいい連鎖反応。
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持って帰って縫ってみたけど、お母様の分がちょっと革が硬い感じがする、サイズも、思い出したら3Eで太めだったので大丈夫か気になる。。
ということで一からやり直し。
渡す相手の顔が見えている人は、どんなに大変でも巻き戻ってやり直します。
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さてさて。そんなこんなでバタバタしてるうちに、青い靴もいよいよラストスパート!
ヒールにコテを当てています。
間に合うのか、私一人ドキドキが止まらない。
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木型を抜く!
先端が潰れなかった釘がえらい粘って難産になってしまいましたが、無事に抜けた!
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磨いて整えて、中敷を貼ります。
中敷の見える面積が大きいから、ちょっと殺風景に見える、絶対になにか踵にワンポイント入れたほうが素敵になる、と強くオススメし、そうかも、と受け入れた彼がなにやら細工をしています。
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ついに、ついに完成‼︎

いい写真です。
みんな自分の作業の手を止めて覗き込む。
完成の喜びをじんわり共有。

クリスマス前の工房最終日に奇跡的に間に合いました。
いや、間に合わせました。

サンタが空手で行くわけにはいきません。

別れ際
「じゃ、頑張ってね。  いや、違うな。    頑張らなくていい」

「じゃ、頑張ってね。   いやいや、さっきも言ったけど、頑張らなくていい」

「じゃ、頑張ってね。    やだーもう何回おんなじこと言ってんだ私。
渡すだけでいいから」

と3回くらい同じことを繰り返し彼を見送りました。






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美しい靴。

もう渡すだけ。

サンタクロースプレゼント工場の末端従業員は間に合ってホッと一息。
この靴を作ったサンタクロースは有給スッカラカンに使い果たして、この寒い冬に風邪ひとつ引くことができなくなってしまったけど、きっと大丈夫でしょう。

誰もが誰かのすてきなサンタ。

かたつむりからの
メリークリスマス

でした。